私的「電王戦FINALを振り返る」

大局観  自分と闘って負けない心 (角川oneテーマ21)
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先日の対局でプロ棋士側が勝利して3勝2敗でプロ棋士側の勝利。

電王戦FINALを、今回は振り返ってみることにした。これで終わってしまう(ホント?)に終わっちゃうんだろうか。

第一局:○斉藤慎太郎五段 vs Aprey● @京都・二条城

さすがはniconico、ほしかったような機能がちゃんとある。棋譜はこれ。

居飛車vs振り飛車。居飛車穴熊に入ろうとした斉藤プロをApreyが阻止して戦闘開始。ノーガードで互いの陣地を破壊し、中盤をほぼ省略した形で終盤へ。

速攻が功を奏したのと、Aprey側の悪手もあり、冷静に相手に対処し追い詰めた斉藤プロの勝利。それにしても、コンピュータ側が次々と王手を仕掛けてくる様はもしかして読みの見落としがあるのではないかという気がして、バイオハザード的な怖さがある。

居飛車穴熊になったのは攻め合いになった時に有利になるとの判断だったのだろうか。研究時ほど強さを感じなかったというが、プロ棋士の実戦の集中力というのはまた別次元なのかもしれない。完全に力負けでしたとApreyの開発者も認めるプロの力量だったと思う。

第二局:○永瀬拓矢六段 vs Selene● @高知・高知城

居飛車の急戦として始まった本局は、いわくも多くついた不明瞭な一戦となった。

成らずでの王手に対してプログラムが対応せずに駒を進めて敗北するという衝撃の結末。しかし、このプログラム上のバグについて永瀬プロは気づいており、あえて成らずを選択したと。

しかしながら、研究しながらそういうバグに気づいたというのがプロ棋士の恐ろしいところであり、プロのデバッガーみたいなことをしているわけである。そしてそれを本番で用いる強心臓。もしもそういうシチュエーションを作ってみようと意図的にやっていたらと思うとゾッとする。一撃死を狙うという安定のザラキ将棋を安定した局面で選んだという状況判断の良さに脱帽した。

第三局:●稲葉陽七段 vs やねうら王○ @函館・五稜郭

こちらはniconicoにまだ棋譜が出てなかったので別から。少し見にくい。

ロックショウギさんにいい感じの棋譜はあるのでそちらを見よう。

こちらも相居飛車での急戦となる。これは稲葉プロの目指した形。しかしながら、これが裏目に出て押し込まれる展開に。攻めるか守るかというタイミングをひとつ間違ったところから、玉が単独で逃げ回るハメになってしまう。

相手が苦手と考えている入玉に向かうように動いたが、それならば先に入玉してから周囲を固める方法でも良かったのかもしれない。もちろん、勝負にたらればは無いのだが、少しすっきりしない形での敗戦だった。

第四局:●村山慈明七段 vs ponanza○ @奈良・薬師寺

こちらも棋譜が少し見にくい。ゆっくり見たい人はロックショウギさんを見よう。

これもまた相横歩取りからの急戦となった。これだけ戦法の選択で急戦が選ばれているところを見ると、序盤の研究が進んでいる流行り分野の方が分があるとプロは考えているのかもしれない。もちろん、残り時間を有効に使うという考えもあるだろうが。

しかし本局では、コンピュータ側のPonanzaが有利に駒を進める。特に、馬が活きる展開に持っていくことができたのがPonanzaの勝因だろう。最後は馬を捨てての捌きと寄せで、完勝。うまく相手の駒を潰していった感じがした。

さすが、2014年の最も強い将棋ソフトといわれたPonanza。ニコニコ生放送での「Ponanzaに勝ったら100万円」で腕自慢のアマチュアに166戦全勝というのは洒落にならない。さすがコンピュータは疲れない。しかし、その棋力もとんでもない。

第五局:○阿久津主税八段 vs AWAKE @東京・将棋会館

先日行われた最終局は、聖地である将棋会館にて。今回の竜王戦、会場が格好良すぎると感じたのは私だけだろうか。もはや名人戦レベルであるが、考えてみると将棋のタイトル戦は城で行っていることが度々ある。これってすごいことじゃないか!

さて、本局は何と21手でコンピュータのAWAKEが投了。最後まで指し続けた第一局のApreyとは異なり、続けて指せば違ったのではないかという思いもしたが、元奨励会員という作者の巨瀬さんは不利すぎる内容での継続は美しくないと判断。「これも将棋」という武士的な潔さによって終局となった。

あえて自陣に隙を作って角を打ち込ませ、生け捕るという方法を取ったという阿久津プロの作戦勝ちなのだが、やはりこれも研究した結果。最も勝率が高いと思われる方法を選択したそうだ。

このシリーズの最終局としては後味がちょっと悪いような気もするが、コンピュータには解せない「棋譜としての芸術性」「将棋におけるスポーツマンシップ」のようなものは、開発者の精神如何で補うことができるということの証左でもあったのかもしれない。

私なりの総括

今回、プロ棋士側の徹底的な研究が功を奏した結果となった。しかしながら、真っ向勝負での読み合いと棋力という点ではほとんど差が無くなっている。

コンピュータ特有の思考ルーチンは人間のものと比べるとまだまだ柔軟性にかけるというか、プロ棋士レベルであれば「読める」「理解できる」ものであるということが確認されたような気がする。様々な評価関数による重み付けは、わかってしまえば利用することが可能になるということだった。もしこの思考ルーチンを複数所持し、ランダムに使い分けたり対局中に適時に切り替えることができるようになったらと思うと、非常に恐ろしいものがある。

ただ、棋士には、人間には「大局観」というものがある。ビビッと感じるというか、何となく感じるものというか、そういうものが実はコンピュータの思考の届かないところに行く瞬間がいくつか見えている。

今度はボクサーが選手とセコンドで戦うように、ポケモンマスターがポケモンとトレーナーで戦うように(?)、馬と騎手が一緒に戦うように、開発者(棋士?)とプログラムが一緒になって戦うようになればまた新たな局面が開けるのかもしれない。

将棋の世界の新たな試みは、もはや将棋という知的格闘技はただのゲームでは収まらず、人間の限界に挑み、人間讃歌を生み出すものであるという認識をもたらした。電王戦を通してプログラムという技術のすばらしさと共に、人間そのものが持つ可能性にも再び光が当たったといえるだろう。

すばらしい戦いを見せてくれたプロ棋士たちと開発者たちに感謝。

そして、相変わらずBONANZAに勝てない。こいつ、強すぎる。

 

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