【書評】今日から日雇い労働者になった

今日から日雇い労働者になった
増田 明利
彩図社
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今回は私が久しぶりに面白いと思ったドキュメンタリー本を紹介する。

「今日から日雇い労働者になった」というタイトルだが、実際には「日雇い労働者をやってみた」というのが正確な表現だろう。実際に著者が日雇い労働者として、日雇い労働をしながら宿をとり、食事をして一ヶ月間生活してみた体験ルポである。

だんだんと社会に対する怒りや、そのような境遇の中にいることに怒りを覚えていくのだが、そういうものだろうと思う。人間として尊重はされず、労働力として適当に採用される瞬間や、そういう沼にはまりながら、その居心地に満足する人々の様は実際に体験してみなければわからないだろう。

私も学生時代にフル●ャストで日雇い労働をしながら生活した時期があったが、その頃の経験からすると、本当にそういう社会は濁っている。

まず、計算ができる人が少ない。だから、計画が無く、眼前の出来事に飛びついてしまう。時給が良い、日給が良い仕事を探して仕事を選ぶのだ。しかし、月給で言えばちゃんと正職員についた方がずっと良いが、今よりも良い環境は時給や日給の良い環境だと錯覚する。だから、日雇い生活から抜け出せない。どうやっても月に14万円しか稼げない職場で労働しながら、なぜ中古で260万円も払ってランサーエボリューションなんて買ったのか。阿呆。そう思ったことが一度や二度ではない。

そういうのが日雇い派遣労働者の現場ではあるのだが、この作者は「事前に」「調べて」突入したので、日雇い派遣労働者としては非常に余裕のある生活だったといえるだろう。時給の高い東京都で、安旅館を根城にすることに成功し、週休2日に近いペースで仕事をし、大きなケガや病気に見舞われなかった。酒も時々飲めた。年齢もそれほど年ではないことも幸いした。それで一ヶ月経過時には6万円程度の残金ができている。

地方に行けば8時間労働しても6000円も給料がもらえないことはザラである。また、保証だなんだと別で経費を抜かれたり交通費も上限があったりで自腹が生じるなど、不遇な環境もいろいろある。何より、安定した労働時間が確保されていないことも相当多い。東京都の最低賃金は888円であり、最低額の県における677円の実に131%である。同じ仕事をしても給料は30%違うのだ。

だから、間違ってもこの本を見て「意外とやっていけるじゃん」などとは思わないことである。作者も一ヶ月で「もうやりたくない」と言っている。

ただ、若い人は「こういう状況になった時」のことも考え、慌てず騒がず、先のことを考えることができるように読んでおくと良いと思うのである。いきなりこの状況に放り込まれると、思考が停止する可能性もあるだろうから。

内容は特に起承転結もクライマックスもない。淡々と労働し、疲れ、お金の収支が記録されていく。だからこそ訴えるものがあったと思う。下手な脚色はすべきじゃない。たんたんと語る事実ほど怖いものはない。戦争体験者の話などがそうであるようにそうだ。国会議員たちに読み聞かせてあげるといい。

仕事は人間を人間たらしめる重要な要素であることを、改めて考えさせてくれる。仕事観のない新入社員たちに課題図書として読ませてみるといい。人間らしく働かせてくれる環境がいかに尊いか。ちゃんとわかってこそ、仕事に真心もこもるのだ。

社会の闇を面白がるのではなく、まじめに向かい合うために読む一冊だ。

今日から日雇い労働者になった

■内容(最高☆5つ):☆☆☆☆
■価格満足度(最高☆5つ):☆☆☆☆

 

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