【書評】この国のかたち1~6巻

年間に本は多く読む方だと思うが、その中でも衝撃的に刺激を受ける本はそれほど多くない。久しぶりに衝撃を受けたのが、あまりにも普通に有名な作家であることが何となく気恥ずかしいのだが、それでも紹介せずにはいられない。

それが今回紹介する司馬遼太郎の「この国のかたち」である。全6巻だが、あっという間に読み進めることができるだろう(実時間は関係ない)。

この国のかたち〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋
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あまりにも司馬遼太郎な文体で書き綴られた随想・エッセイであるが、司馬史観というか、その歴史を見通す目と、そして資料と知識の収集欲が生み出した日本史の見方は私たちが見知って経験していたはずのこの国の姿を一変させる力がある。そして、司馬遼太郎という作家の並々ならぬこの国への愛情を感じるのである。

この国を形作っているものについて、文化芸術言語歴史軍事などなど、見えるものや見えないものについて幅広く触れながら、精密に、そして回りくどく趣旨に向かっていくのだが、残念ながら未完のままで終わってしまった。最後には何を書き綴っただろうかと思うと結末まで行かずに残念な気持ちでいっぱいになる。

昭和の持つ哀愁と憐憫、そして日本の過去に向けられた穏かな視線、躍動する明治の歴史を肯定しつつも日露戦争から狂ったと氏は繰り返し述べる。そして軍部による統帥権の乱用によってその狂乱はピークを迎えるのであるが、その恨めしい時期を多感な少年・青年時代に生きた氏の暗い情念は戦後50年近くが経った執筆当時でも色褪せぬというか、一層の無彩色を持って読者を襲ってくる。

それでもこの国が産んだ歴史と精神性、文化に対する愛情溢れる視線はこの国の歴史がそれでも豊かに育まれてきたことの証でもあるように思える。古来の木造建築物に見られる板一枚も日本の誇りであり、また日本語がまだまだ成熟しきっていない若い言語であることも、言われてみて初めて気づくのだ。それほどに私たちは日本にいながらも日本を知らない。

残念にもリアルタイムで読むことができず、しかも中古書店でセットで2,000円と破格の価格で入手したことが読了した後に恥ずかしい心にさせた。新刊で買っても安いと思えるほど、含蓄に富んだ知識が詰め込まれている。この国についてより深い知識を求めるのであれば、ぜひとも開いてほしい良書だ。

日本を危ぶむ声、心配する声も多いが、もっと愛する声が聞こえてほしい。そのためには深く知ることが大事だ。クールジャパンなどという薄っぺらいものではなく、深く、それでいて澄んだこの国のかたちが確かにこの国には残っていることを、本書を読みながら是非とも考えてみてほしい。

(最高評価は星五つ)
【内容】:☆☆☆☆☆
【価格満足度】:☆☆☆☆☆(本当に申し訳ない。新刊買い直します)

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