オバマ大統領と安倍首相の演説に見える宗教思想と日米同盟スタンス

オバマ大統領の広島訪問は、評価は様々だと思うが、現状のアメリカのスタイルに特段の影響を与えるものではなかったと感じた。

それは想定内だったのだが、オバマ大統領と安倍首相の各演説における宗教的考えが非常に興味深かった。

いくつか演説から抜き出してみよう。

オバマ大統領はこう言った。

どの大陸でも、文明の歴史は戦争で満ちています。戦争は食糧不足、あるいは富への渇望から引き起こされ、民族主義者の熱狂や宗教的な熱意でやむなく起きてしまいます。

どの偉大な宗教も、愛や平和、正義への道を約束します。にもかかわらず、信仰こそ殺人許可証であると主張する信者たちから免れられないのです。

オバマ大統領はアメリカンスタイルで演説をした。主に日本向けの演説であることはわかっていると思うのだが、あえて宗教的要素を取り込んだ演説をしている。

こうした内容は各自が信仰を持ち、なんらかの宗教団体に属する国々では常識だろう。

しかし、日本人の中には驚いた人もいるに違いない。

日本人というのは、宗教は政治に出てくるべきものではない。

また、宗教は善を語り、宗教的な熱意による問題が生じることはあってはならないと考えている。そして、信仰が殺人許可証になるなどと考えたことはないし、そのような者が宗教団体にいるとは考えない。そういった思想や人物がいるのは宗教ではなく、カルト団体、危険な団体という認識でいるからだ。

ただ、アメリカをはじめ海外では実際そういうものだという認識もある。
そういった中に所属してみると、危険な思想の持ち主もいて、普通の社会と大きく変わることはないからだ。

そんな当然のことを、クリスチャンの立場からオバマ大統領は語った。

アメリカという国の物語は、簡単な言葉で始まります。すべての人類は平等である。そして、生まれもった権利がある。生命の自由、幸福を希求する権利です。しかし、それを現実のものとするのはアメリカ国内であっても、アメリカ人であっても決して簡単ではありません。

こうしたこともちゃんと知らないといけないのだが、ここで言われている「平等」や基本的「人権」は神によって与えられているとするのがアメリカである。神が与えたからと言っても、実現は人間である我々には簡単ではないというのがアメリカ人の実感である。

どうしてこのような演説をしているのか、考えられるの理由としては、日本人の中には戦争や核兵器の使用について、戦略的判断を非難しているのではなく、道徳的・人格的な問題として非難している人が多いということが情報として入っているのだろう。

わかりやすく言うと、「どうして愛や平和をうたっているキリスト教の国が戦争したり核兵器を持ったりするんですか?」というやつである。

それに対して今回のオバマスピーチは「現実は難しい。理解してほしい」と言っているのである。これは沖縄の問題や現在の北朝鮮対策なども含めて、どう言われようと現在のスタンスは変えられないということだ。

つまり、戦時中はもちろん現在についても、アメリカという国は宗教的理念に基づくというよりは、現実の状況に即して行動しているということだ。よって、宗教や思想、理想を持ち出して非難される言われはないのである。だから謝罪の言葉もなかった。

これがアメリカという国の過去からの一貫したスタンスである。

 

そして、一方の安倍演説にはこんな一節で結ばれた。

そのこと(平和な世界にすること)が、広島、長崎の原子爆弾の犠牲となった数多の御霊の思いに応える唯一の道である。私はそう確信しています。

「御霊」という単語は、キリスト教では神の霊に対して用いる言葉であり、人間の霊に対して用いる言葉ではない。

オバマはクリスチャンとして話したが、安倍首相は日本人、特に神道寄りで発言をした。あくまで、戦争に参加し戦死した人たちの霊は「英霊」とし、彼らの霊は「御霊」なのである。

日本の考えでは、何かの大義のため犠牲になった霊たちは尊く扱われるべきで、そうしなければ、祟りをもたらすと考える。だから霊を意識する文化がある。だが、こうしたスピーチの場で「霊」が出てくるのは他国では一般的でなく、非常に宗教的に強い思想があると感じられてしまう。

安倍首相は「戦争で犠牲になった人々のためにも平和にすべき」と言う。それが祟りを避け、子孫たちに福をもたらすと考えているからだ。実際、犠牲になった人々も平和を願っているとは思うが、あまり不用意に信仰的信条を背景にした発言を公の演説に持ち込むのはやめてほしい。

一方、過去の日本が行なった侵略行為や戦争の是非には触れず、また、現在の集団的自衛権や憲法9条改正などの問題にも一切触れない。御霊たちには配慮しているが、市民レベルの平和観との相違は大きい。圧倒的な「鈍感さ」、あるいは「無視」である。

内容を何度読んでみても、配慮しているのは「アメリカと英霊たち」という、「国民不在の接待演説」に終始した感がある。

オバマ大統領にしろ安倍首相にしろ、思想的な部分で、国民が願っている「平和」に対する歩み寄りは見られなかったと言っていい。日本国民に対して「理解してほしい」というオバマ大統領と、見事に日本国民の声を「無視」した安倍首相。

「心の紐帯を結ぶ友となり、深い信頼と友情によって結ばれる同盟国」

「世界に希望を生み出す同盟」

の礎はどうやら残念にも磐石であるようだ。

ニュースの
茂木 誠
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